歌舞伎風俗通信

歌舞伎コラムです。
以前某雑誌に連載していたものの書き直し再録です。
その他いろいろうざいウンチクです。楽しんでいただけると嬉しいですー。
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# 「商売往来」2
昨日上げた「商売往来」の続きです。
序文とその訳上げたので、本文の一部を上げてみます。


そもそも、「商売往来(しょうばいおうらい)」というのはどういう本かというと、
「往来もの」と呼ばれる一連の入門書のひとつになります。

もともと「往来」というのは、「行ったり来たりするもの」という意味から、手紙を意味します。
ふつうに「往来の(手紙の)巻物」のように使います。
室町から江戸にかけて、初等教育のために手紙文の定型を何パターンも書いた、習字のお手本が作られました。
「庭訓往来(ていきんおうらい)」という本がその代表です。
「庭訓(ていきん)」というのは、家庭でのしつけや学習のことです。
「家庭で学べるお手紙パターン練習帳」です。

ただし、この「庭訓往来」は、全て漢文です。
お侍が書く儀礼的な漢文の手紙の手引書です。
しかも、江戸中期にはすでにお手本の文面が難解すぎたらしく、いくつも解説本が書かれました。
ワタクシも「庭訓往来」は見たことがなく、江戸期の解説書を2冊見たことありますが、
…解説本自体が難解すぎでした。たすけて!!

まあとにかく、
これら「往来もの」の流行からの派生で、初心者向けの教育本には、
手紙には関係なくても「○○往来」と付けるようになりました。
この「商売往来」も、そのひとつであろうと思います。

もともとの、文字だけの「商売往来」は、
本文見るとわかるように、ただの単語の羅列です。
こんなです。



この画像のさいしょの部分だと
「粉薬 散薬 膏薬 全以(まったくもって)偽薬種不用(もちいず)量入(かけいれ)之無様正直第一也」
とか書いてあります。薬屋さんの章です。
そのあと山海の魚鳥の名前がずらっと並んでいます。

このように、基本的には商売で使う単語や商品名を全て並べて覚えさせ、
書類や手紙を書くときに困らないようにした本なのでしょう。
そういう意味では「往来」というタイトルにも沿っています。
覚えきれない人のために、豆本が作られたのでしょう(笑)。

「絵字引」のほうは、同じ内容のひとつひとつの単語に、説明用の絵と、解説が付いています。




テレビも写真もない時代ですから、身の回りに存在しないものについて知るのは難しかったです。
なので、このような絵つき本で、世間一般にある「品物」についてのひととおりの知識を得ておくことは
非常に有用だったろうと思います。


こういうものは、寺子屋で教科書にしたらしいです。
商人の多い地区では商業高校的な寺子屋があり、
「商売往来」はそういう場所で使うために作られたようです。

最後の「おくづけ」と見ますと、京都と江戸の職人(文章、画、彫師、刷師であろうと思います)の名前とともに
最後に版元の名前が書かれています。
住所に「・・・上ル」とあるので、京都の版元ではないかと思います。


「商売往来」はバリエーションが多く、
ほかに明治時代に書かれた「世界商売往来」というのもあります。
「世界…」のほうは、世界の貨幣と日本円との相場や、
西洋の品物の説明が並んでいます。
明治初期の貿易業務に使われたマニュアルということだと思います。


序文のあとに、まず格言ぽいのが掲載されています。
ここからが本文になります。
画像です。
じっさいは挿絵はきれいなフルカラーです。




=禮(礼)=
あめつちと 分かれし中の 人なれば 下を恵みて 上を敬へ
あめつちと わかれしなかの ひとなれば したをめぐみて うえをうやまえ

 「あめつち」は「天地」と書きます。天と地の間、この世界全体を意味します。

訳)天と地と分かれているこの世界。そこに住む生き物の中で人はわれわれは人として生まれてきた。
(運良く)人として生まれてきたのだから、りっぱに生きなくてはならない。
そのためには、自分より立場の弱いものには優しくしていろいろやってあげるようにし、自分より立場が上のものには敬意をもって接するのがよい。

※仏教の有名な言葉に、
「人身受けがたし、今これを受く。仏法受けがたし、今これを受く」というのがあります。これを意識しているのだと思います。



=楽(がく) =
糸竹は おさまれる代の もてあそび あそびと知らば ほどをすごすな
いとたけは おさまれるよの もてあそび あそびとしらば ほどをすごすな

 「糸竹(いとたけ)」は、糸で音を出す三味線と、竹で作られた笛です。楽器全体を意味し、さらに意味を広げて歌や踊りなどの芸能関係の娯楽を指します。
江戸時代はこれらのお稽古ごとがとても盛んでした。

訳)芸能のお稽古ごとは、十分に統治されて平和な時代だからこそできる、生産性のないひまつぶしのようなものである。
ただの遊びだということを理解したなら、(恥を書かない程度に練習するのはよいが)度をこして夢中になってはいけない。




=射=
弓束ね 矢をはぐわざは 知らずとも 心の的を 違へぬぞよき
ゆみつかね やをはぐわざは しらずとも こころのまとを たがえぬぞよき

弓矢について書いていますが、武道全体について言っていると思っていいでしょう。武道は武士のものですが、日本中に町道場や武道の稽古のサークルのようなものがあり、誰でも練習することはできました。
とくに弓矢は、当時は矢場(やば)などの遊び場もあって、誰でもやったことがある身近な娯楽でもありました。

訳)弓をにぎり、そこに矢をつがえる方法を正しく知っていれば、それはかっこいいことだが、
それができなくても、生きていく上で正しい目的を持ち、その目的(心の的)をはずさないようにする事こそがりっぱで大切なのである。



=御=
世をわたる 人の心の 離れ船 乗り違へてぞ あやふかるべし
よをわたる ひとのこころの はなれぶね のりたがえてぞ あやうかるべし

この「御」は「ぎょ」と読んで、人間関係を御す(うまくあやつる)というような意味でありましょう。

訳)世の中の人と人との間をうまく渡って生きていくことを、船で川を渡ることに例えるならば、
人の心は簡単に離れていくもので、ひとつ間違えると離れ舟のように一人でただようことになってしまう。
間違った船に乗って(間違った行動をして)離れ舟になってしまうことは、じつにあぶなっかしい事である(気をつけなくてはいけない)。



=書 =
読み書きを 宝の山の 麓とも 知らでのぼらぬ ひとのはかなさ
よみかきを たからのやまの ふもととも しらでのぼらぬ ひとのはかなさ

訳)読み書きができることは生きていく上でとても有利なことである。いろいろな情報を得てうまく行動し、お金を儲けたり、それ以外にもいろいろ大事なものを得ることができる。
それを知らないで勉強をなまけ、がんばれば登れる宝の山に登らないひとの人生は、本当にはかないものであるよ。



=数=
そろ盤に もれたる者(物)は なき物を いやしきわざと いふぞ理なき
そろばんに もれたるものは なきものを いやしきわざと いうぞわりなき

訳)世の中のいろいろなもので、数字に無関係なものなどない。また、お金に無関係なものも存在しない。
そのようにそろばん(数字やお金)はとても大切なものなのだが、それを扱う商人の仕事を身分の低いいやしいものだとバカにする考え方がある。理屈に合わないことである。



=江戸時代の人々は、こういう格言的な和歌調の文章を好みました。
掛け軸に書いて自戒のためにかけておいたりもしました。
そういう文化の中で作られたものだと思います。
どれも含蓄に富み、現代にも十分に通用すると思います。。





本文の最初のほうです。
画像です。




見やすいように単語に分けてみました。
なんとなく意味はわかりそうに思うので、訳はつけませんでした。

しゃうばい わうらい えじびき
商売 往来 絵字引

およそ しゃうばい もちあつかふ もんじ かんず とりやり の にっき
凡 商売 持扱 文字 算数 取遣 之 日記

(絵)

これ しょこく えんきん わうらい あるい(は)せいう ちめい じんめい(を) しるす
是 諸国 遠近 往来 或いハ 晴雨 地名 人名を 紀

しゃうもん
証文

(絵)


いへくら ぢしょ えいだい うりわた(し) ある(ひは) きんぎんしゃくやう (その)ほか てがた(の) ぶんしゃうもん なり
家蔵 地所 永代 売渡し 或いハ 金銀借用 その外 手形の 分証文 なり

ちうもん
注文

(絵)


ちうもん(は) いっさい しなもの すんぽう (又) いろ (不明) もんどころ このミ(ホん)
注文ハ 一切 品物 寸法 又 色 (不明) 紋所 好ホん


余力があったら全文書く日が来る
かもしれません。




=変体仮名について=
昔の文字をごらんになって、見慣れないぐにゃぐにゃ感から「崩し字」だと思うかたが多いのですが、
これは「変体仮名」と呼ばれる、当時の文字です。
この教科書に使われているのは、かなりきれいな形の読みやすい文字です。
現代人が想像している以上に、今の文字とは違う形をしています。
漢字をそのまま音だけ取って「かな」として使っているものも多く、漢字の形が中途半端に崩れている状態が、独特のこのぐにゃぐにゃ感です。
現代活字版と、変体仮名版とを見比べて、形の違いを比較してみるのもおもしろいかと思います。


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